「めっちゃ面白かったね〜」「そうやね! 役者さんの姿勢や仕草がハマっていたし、声もとても素敵だったね」日曜夜のカフェでキャッキャ♪ とアラサー女が2人が喋っている。声には出さなかったが俺は心のなかで「こいつら浮かれて、ぺちゃくちゃ喋りやがって。演劇を見るなんて良いご身分だぜまったく…… こっちは仕事が忙しいんだよ」そう思った。
年中無休。365日、24時間が俺の仕事のやり方だ。ちょっと気分を変えてカフェに仕事に来たのに、アラサー女の演劇の話が気になり集中できない。飲食店を経営している幼馴染から“スタッフとの接し方”について相談を受けていたので、解決策を今日中に考えて送らないといけないというのに、まったく困ったもんだ……
その資料作りの為に、カフェでPCを開いてワードに文章を書いては消す、書いては消すの作業を繰り返していた、文章で書くよりは口頭のほうが分かりやすいので電話で伝えたかったが、幼馴染は忙しく電話にはでない。どうしても文章で教えてくれというから書いているのだが、うるさい女の話声と連日の疲労でそろそろ頭が限界のようだ。
酒でも飲んでちょっとリラックスしたい気分だ。しかし、カフェで酒を頼むわけにも行かないので中身がなくなったアイスコーヒーの氷をガリガリと食べていたら、少し頭が整理されたのか、幼馴染に上手く伝える方法を思いついた。
仕事は演劇
そうか! 仕事ってのは演劇なんだ。ぺちゃくちゃうるさいアラサーのお姉さんが演劇の話をしていたことに、ちょっとだけ感謝した。演劇というのは役者さんが舞台上で仕草や身振り、台詞や表情を駆使し演技し物語や人物を顧客に対して表現するものだ。間違えないか調べるとWikipediaにそう書いてあった。
実は飲食店も演劇と同じだ。幼馴染の店は“餃子の龍”という名前だから。飲食店を劇場に例えると龍劇場。この龍劇場という空間で表現しないといけないものは、いかに顧客を感動させてまた来てもらうか。と言うことが大事になる。だから、龍劇場で働くスタッフは役者にならないといけない。大根役者じゃダメだ。顧客を感動させてまた来てもらえるような素晴らしい役者だ。
その為に1番大事になことは“なりきる”ということだ。餃子一つをテーブルに運ぶにしても、ビーバップハイスクール宜しくばりに、ダラダラとあるいて餃子を提供しても顧客は感動しない。男だと華麗に、女性だと美しく歩いて餃子を提供するだけで雰囲気はガラッと変わる。
話す内容も大事だ。あなたは飲食店でスタッフがプライベートなはなしをペチャクチャしている場面に遭遇したことはないですか? 「今日仕事が終わったらどこに飲みに行く?」「最近旦那と仲が悪くて」などなど……
こんな時、どんな気持ちになったか覚えていますか? どんなに料理が美味しくても店の雰囲気が良くても一瞬で台無しになったはずだ。
また、服装や注文のとり方一つでも、顧客の感動具合は変わる。役者さんと同じでこれら一つ一つに気を付けて、仕事をしないと顧客はまた来たいとは思わない。餃子だけでなく、餃子を含めた全てのサービスが顧客のハートを掴むのだ。
なり切るのは職場の中だけではない。一流の役者は人に見られている時は夢を崩さないように常に演技をしておくものだ。飲食店のスタッフも同じで、顧客に感動を届けるためには仕事に行こうと家からでた瞬間から役者でなくてはいけない。
家から出て、電車の中で化粧をしたり、歩きタバコをしていて顧客に見られたら顧客はどんな思いをするだろうか? よくあることだが、きっと良い思いはしないはずだ。言い換えると家を出てすぐ演劇モードにならないといけない。そこから先は公私を分ける必要がある。
ビジネスライク
そう、ビジネスは公私を分けないと務まらないのだ。よく公私混同した仕事のほうが上手くいくとか言う人もいるが、普段通りの自分で仕事をしてもそこに感動は生まれない。仕事をする時は仕事をする人になりきらないといけない。家での自分、いつもの自分とは違った自分になる必要がある。
だからTOPも公私を分けないといけない。仕事の場で、プライベートな話をする必要はないし、逆に仕事に関係ないことはしてはならない。そこは、顧客に対して最高のサービスを提供するために役者になりきらないといけない。
だからスタッフとの接し方も、ビジネスライクである必要がある。そうすることで最高の演劇をすることが出来る。そこに私情は挟まない。それぞれの役割を演じるのだ。こういうと少しドライな感覚を受けると思うが仕事はドライな方がうまくいく。けれどプライベートになると話は別だ。
仕事が終わり、スタッフと飲みに行ったりすることもあると思う。その時には、スタッフのプライベートの話を聞いたり、自分のプライベートな話をしても良い。プライベートの事を仕事に持ち込むのはマナー違反だと思うが、スタッフも人間だ。
気を付けていても、プライベートの異変は仕事にも影響する。そのへんは、仕事が終わって舞台をありた後に、素の自分で解決してあげると良い。ちょっとした不安がスタッフの行動を妨げる。だから、その不安を取り除いてあげることによって生き生きと働けるようになる。そういったことに時間とお金を投資することもスタッフを伸ばすためには必要だと俺は思う。
まとめ
まとめると、スタッフとのコミュニケーションのとり方、接し方は劇場である仕事場や仕事をしている時、仕事モードな時は役者になりきりビジネスライクな方が良い。
しかし、仕事が終われば親身になってスタッフのプライベートの相談に乗り、一緒に解決することで、スタッフの不安から来る行動のブレーキがかからなくなり、行動の幅が広がり、良いパフォーマンスを発揮できるようになる。
注意して欲しいのが、あなたがスタッフとどこまで関わりたいか、どこまで踏み込んでスタッフを成長させたいかだ。プライベートには踏み込まず、ビジネスのことだけで育つスタッフも確かに居ると思うが、それだけだと厳しいスタッフも居る。
プラベートなこと、仕事以外の人間の幅を広げる部分まで踏み込む勇気があるなら時間はかかるが確実にスタッフは成長していくと思う。大事なのは、あなたが目指すところやSTYLEがどうなのかだ。あなた次第で、スタッフは大きく変わる。
ビジネスライクな付き合いのみか、踏み込んでスタッフの人間の幅を広げるのか、選択はあなた次第。スタッフを真剣に育てる気があるなら、覚悟を決めて下さい。そう私はスタッフにアドバイスをした。
※この文章はフィクションです