私は美味しいお茶を淹れたい。常々そう思っています。その為、茶師の友人から直接学んだこともあります。美味しいお茶を淹れるため、友人から教わった点は大きく分けて四つあります。それは、お湯の温度、お湯の量、お茶の量、お茶の抽出時間です。
お湯の温度は淹れたお茶の温度と味や香りに影響します。お湯の量、お茶の量、抽出時間はお茶の濃さに影響します。まずは、茶器を温めましょう。茶器を温めておくことで飲む時に湯の温度が下がらないようにしたり、茶葉を開きやすくします。また、お湯の量を図る意味合いもあるんですよ。
なるほどなるほど、お茶が冷めないようにするだけでなく、茶葉が開きやすくするためにも茶器を暖める必要があるんですね。友人から学びながら美味しいお茶を淹れたい私は、必死にノートにメモを取りました。
「ここまで大丈夫ですか?」茶器を温め、お湯の量を図り終えたら次は茶葉を急須に入れます。茶葉の量は大体1人で3グラム、二人で5g程度です。少し濃い目に作りたければ、茶葉の大きさによって異なりますが、7g程度が個人的にはオススメです。
良いお茶ほど、茶葉が縮まり小さくなっているので、スプーンですりきりみたいな見た目や感覚で判断するのではなく、重さを測るほうが失敗が少ないですよ。
友人は大雑把な私の為に言ってくれたのでしょう。今まではだいたい目分量。自分の感覚で茶葉を入れていました。もしくは、茶葉をたくさん入れ、お茶の濃さはお湯の量でコントロールしていました。
無知な私のために、友人は事細かに教えてくれます。今まで、お湯は沸騰したのをヤカンやポットから直接淹れてませんでしたか? 実はお湯の温度は、高級茶であれば70度かそれより少し低い温度がオススメなんです。
だからお湯が沸騰したら少し温度を下げるために、一度湯呑みに注いで下さい。湯飲みに入っているお湯から立つ湯気が見えるかな? どうかな? ぐらいが、大体70度です。
目安の温度になれば、急須にお湯を注ぎましょう。せっかちなあなたは、中の茶葉がどのようになっているかが気になるかと思いますが、急須の蓋をあけると。香りが逃げてしまいますので、注意してくださいね。お茶の種類にもよりますが、時間的に1〜2分を目安にして下さい。
私の性格を友人はよく知っている。そういえば小さい頃、急須の茶葉がどのようになっているかが気になって、蓋を取ったときに顔を近づけすぎて口の周りを蒸気でやけどして、氷に顔を埋めた記憶が蘇ってきた。
最後にお茶を注ぐわけですが、湯呑みが1つであれば、そのまま淹れれば良いですが、複数ある場合は、湯呑みを一列に並べ、右端から順番に左に向かって少しずつ注ぎ、左端まで行けばまた右に戻ります。
お茶は一煎目を淹れて、茶葉を取り替えるのではなく、二煎目、三煎目と淹れることが出来ます。一煎目だけでなく、二煎目も美味しく頂くためには、茶葉を急須の中で蒸らしすぎないようにしないといけません。
その為に一煎目を淹れる時に最後の一滴までお湯をそそぎきること、茶葉の塊を急須の外側を叩くことでバラバラにしておいたり、蓋をあけておき急須の中で茶葉が蒸れないようにしておくことが大切です。
茶の極意
私が教わった簡単で美味しい茶の淹れ方の基本は以上ですが、友人の話はここで終わりませんでした。お茶は嗜好品です。本来であれば、人それぞれお茶の好みがあり、苦いのが好きな人も淹れば、薄いお茶が好きな人もいます。香りが高いのが好きな人もいれば、ぬるいのが好きな人もいる。美味しいお茶は人によって違うんですね。千利休の話をしってる?
昔ね、ある人が千利休さんに「お茶の極意を教えて頂きたい」と訪ねて行ったみたいなんですが、利休さんはその当時お茶をの道をかじった人間なら誰でも知っていた「茶は服のように点て」ではじまる“利休七則”を答えました。
それ聞いてある人は「そんなことは誰でも知っています!」と言うと、利休さんは「それが出来ればあなたの弟子になりましょう」と言われたそうです。
“利休七則”であなたに伝えたいのはその中の「茶は服のよきように点て」です。内容は、炭は湯に湧くように置き、冬は暖に夏は涼しく、花は野の花のように生け、刻限は早めに、降らずとも雨の用意、相客に心せよ。と書かれているんですが、分かり辛いので要約すると、相手が飲みやすいお茶を淹れなさいとうことです。
飲みやすいお茶とは、相手の状態に合わせたお茶のことです。わたしはこの言葉を聞いた瞬間に気付かされました。
美味しいお茶を淹れたい
自分が会社で行っている、スタッフの育成方法はまさに、お茶の淹れ方と同じだ! 同業の方によく「スタッフ育成するときは気付かせた方がいいの? それとも教えた方がいいの?」と相談されます。
これに対する私の答えは、利休のお茶に対する考えと同じで、相手の状態に合わせることが大切だと思います。私の会社の事例で説明すると、何度同じことを教えても半年後ぐらいには、また同じ質問をしてくる。このサイクルが二年ぐらい続いたスタッフがいました。
一生懸命丁寧に分かりやすく教えると「分かりました!」といって、行動するのですが教えたことと、やっていることが微妙に異なる。
少しずつ修正を掛けていけば、そのうち教えた行動をしてくれるだろう。と思い続けて二年間。しかし、毎回同じような質問をしてくる。それも全てマニュアルに書いてあることばかり。「その答えはマニュアルに書いていますよ!」そう伝え、また教えても、結果は同じ。何も変わらない。
教えても教えても同じことを繰り返す。いい加減頭にきて本人に直接かなり強く言ったこともある。その時は「すみません分かりました」というのだが、やはり何も変わらない。
ある時ふいに、同じことを繰り返すスタッフに上手くいっているスタッフの行動パターンを一緒に分析してもらったことがある。Aさんの行動パターンはこうだよね? 私の話を聞いて、素直にその通り聞いて行動する。そして、わからないところは質問して修正しまた行動する。こんなパターンのAさんはもう院長になってるよ。
あなたのいつものパターンと比べてみるとどうかな? この瞬間に同じことを繰り返すスタッフが、はっと気付きその後の行動パターンが変わった。あれだけしっかりと教えても変わらなかったのに、上手くいっている人の行動パターンを一緒に分析しただけで変わった。
かとおもえば、違うスタッフは教育してもダメ、他のスタッフのパターンを一緒に分析してもダメ、彼の場合は優しく丁寧に教えるよりも、悪い点を強めの口調で厳しく注意すると変わった。よく、褒めて伸ばしましょう。行動を認めてあげることが大事ですとか本に書いているが私の考えはこうだ。
スタッフは自分と同じ人間だが、人それぞれちがう。生まれた場所や今まで育った環境も違う。価値観や、考え方。行動パターンが違って当たり前。美味しいお茶の淹れ方と同じで、基本はあるが理想は人それぞれにおいて個別の対応をすること。スタッフを最高の状態に育てるためには、基本を大切に個別に対応していくことが大切ではないかと思う。
「美味しいお茶を淹れたい。スタッフを上手く育成したい」と思ったらまず「茶は服のように点て」その極意は昔から続く利休の考え方にヒントが有るのではないでしょうか。