原理原則

モチベーションを上げたい時に読む「バカ男の物語」

著者:博多骨盤HEROコッツマン著者:博多骨盤HEROコッツマン

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モチベーションを上げたい時に読む「バカ男の物語」

パンッ! パンッ! バンッ! リズミカルに乾いた音が鳴り響く、パパパバンッ! シッ! パパパバンッ! タンタンタンタンタンタンタン…… 

 

一定のリズムが刻まれている。ビーーッ!! 乾いた室内にブザーが鳴り響くとと一定のリズムを刻んでいた音は一瞬で消えた。

 

はぁはぁはぁはぁはぁ… 激しい呼吸と共にはち切れそうな心臓の鼓動が聞こえてきそうだ。シャァッ! オラッ! 気合が入った声。トタンで出来た小屋の窓は熱気で曇り、外から中の様子は分らない。

 

また来てしまった…… このドアをあけずに引き返したい。けれど自分の心が許さない。ここで逃げたら絶対にあとで後悔する。小屋の前を20メートルほど通り過ぎた後、ズルズルと引き返す足取りはナメクジより遅かった。小屋の扉が巨大な鉄の塊に思えた。

 

勇気を持って扉を押す。「はよございや〜すっ!」気合の入った声で挨拶し、今から始まる拷問に近いトレーニングに対する不安をふっとばす。

 

そう。ここはボクシングジム。試合に向けて毎日毎日練習をする。自分の人生の全てをかけてチャンピオンを目指す。朝から20キロのロードワーク、一息ついたらガソリンスタンドのバイトに向かう。

 

昼はおばちゃんがやっている380円の弁当。夕方になればジムに向かう。寝る。こんな毎日。休みはない。もちろんお金もない。友人の誘いも練習があるからと断るのだが。実はただお金がないだけ。

 

こんな生活を何年続けただろうか? でも俺は楽天的だった。なんとなかなるさ! 俺は絶対にチャンピオンになる。それだけを信じて生きてきた。今まで何をやってもダメだった。全部中途半端。けれど、ボクシングだけが自分の魂を燃やし続けてくれた。俺にはボクシングしか無い。そう信じて疑わなかった。

 

自分を大事にすること

自分を信じてモチベーションを保てた理由の1つに、母の存在があった。かあさんに恩返ししたい。今まで沢山の苦労をかけてきた。何かあった時はいつも無条件で信じてくれて全力でかばってくれた。

 

どう考えても自分が悪いのに、それでもかばってくれた。そんな、かあさんに世間から認められている自分を見せたい。そんな思いがあった。

 

ただ勝ちたいだけではない、勝って喜ばせたい人がいる。 その確固たる目標、そしてそれを達成するという信念があったからこそ、辛い毎日を乗り越えてきた。出来ないなんて思ったことはない。絶対の自信があった。そしてそんな自分が好きだった。

 

信念というと普通、人は頑なに自分を貫く意志のようなものを想像するかもしれないが、本当の信念というものは実は違う。信念というのは自分を大事にしながら貫くもの、つまり自分が楽しいと思うことを、楽しみながら目標に向かってやり続けるということだ。

 

そして、頑なに、時に卑屈になって自分を通すことではなく、柔軟性を持ち人の言うことも素直に聞きながら進んでいくことが信念なのである。

 

試合前の練習がきつくてジムに行くのが嫌で嫌でたまらなかったけど、不思議と毎日が楽しかった。特に練習後にバイト先の社長がおごってくれるビールは格別の味で、このために練習しているんではないかと、錯覚するくらいこの時間は最高の幸せだった。

 

辛いことはあったけど、自分が楽しいと思えることを、明確な目標のもとに行なっていたからモチベーションが落ちることはなかった。

 

そういった日々の中で、気持ちの折れた同期の仲間は次々に引退していった。

 

本当の信念を持ち合わせていなかったのだ。でも俺は違った。試合でぶっ倒されて負けても、次こそは絶対に勝つ。俺の方が強い。不思議とそう思えた。楽しいことを楽しんでやっているとマイナス思考にはならない。自然と楽観的になっていく。馬鹿じゃないかと思うくらいに。

 

半分目がふさがったボコボコの顔で帰って、友人が撮ってくれた試合のビデオを何度も見直す。あっ〜! このパンチが見えなかったんだ。試合が終わった後にもかかわらず、不思議と体が動き出す。このモチベーションの源が信念なのだ。

 

転機

 

ある日、ジムの看板でもあり、兄貴分として慕っていた先輩がとうとう世界チャンピオンになった。たまらない瞬間だった。リングサイドで応援していた自分は、喉が擦り切れて潰れるほど声を吐き出した。

 

「きいてるきいてる! きいてるよ〜っ!!」「大丈夫! パンチ見えてますよ!!」先輩も強かったが、相手も海外で百戦錬磨の猛者だった。倒し倒される激闘の末、最終ラウンドまでもつれ込み、僅差の判定で先輩が勝利した。

 

人生でこんなに感動したことはなかった。どちらかと言うとドライな性格の自分の頬に涙が流れ落ちた。本当に嬉しかった。同じ釜の飯を食い、一緒にトレーニングをし、一緒に風呂に入り、酒を飲み、夜に繰り出した。そんな日々の思い出が涙となって溢れ出た。しばらく涙は止まらなかった。

 

その後、先輩は3回の防衛戦を繰り返し全て勝利して引退した。先輩は確固たる目標を持っていた。チャンピオンになることに対して誰よりも貪欲だった。そしてカッコよかった。俺も次に続くぞ! 気合はMAXだった。先輩の活躍に後押しされ、それからは試合をする度に俺は全てKOで勝利を飾った。

 

自分を応援してくれる人も少しずつ増えていった。仕事仲間や、今まで疎遠になっていた友達まで試合に駆けつけてくれるようになった。トレーナーも特に気にかけてくれるようになったし、夜の街でも少しはモテるようになって来た。

 

2回目の涙

 

相変わらず財布の中身は入っていなかったが、毎日が楽しかった。そう…… あの試合までは。調子に乗っていたわけではなかった。皆のチャンピオンになって欲しいという期待を背に日々の練習に死ぬ気で望んだ。練習中に体が痙攣し呼吸が止まり救急車に運ばれたこともある。やれることは全てやった。環境も最高だった。

 

けれど、ある試合でたまたま相手の頭頂部が下からエグい角度で自分の顎を突き上げた。その瞬間、俺の顎が粉砕した。顎の粉砕とともに、自分のチャンピオンになるという夢も一緒に砕け散った。

 

元々顎が弱かった自分は今までの試合でのダメージも蓄積していて、再起不能なほど顎が砕けてしまっていた。手術が終わり退院後、ジムに挨拶に行った。今までの思い出が体中を駆け巡った。この時も涙が止まらなかった。あれだけ涙を流したのは、先輩が世界チャンピオンになった時とこの時の2回だけだ。

 

チャンピオンになるという確固たる目標がなくなった自分は、糸が切れた凧のようにフラフラさまよった。何もしたいことがない。仕事にも行きたくない。不思議な感じだ。体力はあったが、気力がなかった。体の中から何も沸いてこない。今まで自分を支えてくれていたものは何だったんだろうか?

 

自分が燃えていた燃料は何だったんだろうか? 必死で探した。そんなある日、引退した先輩が出した飲食店に誘われた。

 

あれだけ有名だった先輩だ。オープン当初は各業界から多くの花が届いていた。そして、連日超満員のお店だった。だが、行ってみて驚いた。あれだけ流行っていた店に客は殆どいない。店も気のせいか少し古ぼけた感じがする。

 

「先輩どうしたんすか?」答えは明確に返ってはこなかった。

 

あとから聞いてわかったことだけど、先輩はボクサーとしては超一流だった。確固たる目標を持ち熱い心を燃やし続けてチャンピオンになった。そこまではよかったが、その後が悲惨だった。

 

ボクシングという世界しか知ら無かった先輩は、前々からやってみたかった飲食店を始め、最初は名前で売れたが、やはりどの業界も実力勝負。徐々に売上は低下していったらしい。更に海外投資や不動産に失敗し、店を再起させる気力も失っていった。

 

10カウントは聞こえない

あんなにかっこよかった先輩がなぜ・・・

 

先輩は、子供の頃からチャンピオンとして育てられてきた。周りの大人にはボクシングしか教えてもらっていない。信念をしっかり持ち、人の言うことを聞く素直さも持ち合わせていたから、トレーナーやジム生と一丸となって戦うことも出来た。

 

そして、ボクシングでチャンピオンになるという一つのことにフォーカスし、目標を達成した。そうやって信念を持ち明確な目標に向かってモチベーションを維持していた頃は良かった。

 

だが、それがなくなり、支えてくれていた回りの人間がいなくなった時にどうして良いかわからなくなったのだ。勝つこと、ボクシングの世界で有名になることしか考えていなかった先輩はその狭い世界でしか生きていけなかった。

 

確固たる目標や自分の信念がないまま、そして外の世界を知らないまま、ボクシング以外の道を進み転落していった先輩は、ボクシングでダウンしたときと違い、もう二度と立ち上がれなかった。10カウント、KO負けだ。

 

勿論チャンピオンになる夢を叶えた先輩は本当にかっこいい。でも自分は先輩のようになりたいと思うか・・・?

 

答えはNOだった。

 

先輩の人生を間近で見ていて気付かされた。自分はボクシングでチャンピオンになるのが本当の目標ではなく、かあさんの喜ぶ姿が見たかっただけだ。それはボクシングの世界でなくても追い続けられる確固たる目標だった。

 

そして、幸い、バイト先の社長を含め周りの友人は、ボクシング以外の世界をたくさん自分に見せてくれ、人間としての幅を広げてくれた。子供の頃からボクシングの道しか無かった先輩に比べるととてもラッキーなことだった。

 

ボクシングではチャンピオンになれなかったけど、俺には第2ラウンドがある。引退した後、かあさんは俺に言った「あんたが輝ける場所は他にもあるでしょ! 私は輝いているあんたが大好きだよ」

 

俺にはまだまだやれることがある。ボクシングだけでなく、かあさんを喜ばせる仕事がまだ残っている。

 

モチベーションは落ちない。だって、俺には信念があるから。

 

よし! 今日もやるぞ。

 

まとめ

モチベーションを保ち続けるためには、自分がこれだと思える何かを見つけ、楽しみながら目標に向かって進むことが大切だ。これが信念を持つということである。

 

けれど間違えてはいけないのは、信念と頑固は違う。自分を貫きながらも人の意見に耳を傾け素直に行動する。そうすることで更に楽しく進んでいくことができるのだ。

 

仕事において、よく「モチベーションが上がらない」という言葉を耳にする。まずは自分が楽しんでそれをやれているのかを自分自身に問うと良い。もちろん“仕事=楽しいこと”ではない人も多くいると思う、その場合は生活を楽しめているか、生活を楽しむための仕事として捉えられているかと考えると良いと思う。

 

楽しくないこと、喜びのないことに対してモチベーションを持ち続けるのは無理なことだ。楽しいから、多少の辛いことがあっても、落ち込むような時期があっても、最終的にはまた前を向いて進もうという気持ちになれる。

 

そして、前だけを見つめるのではなく、自分の世界を広げておくことも重要だ。自分の世界を広げいろんな見方ができるようになることで、例え1つの目標を叶えることが出来なくても、もしくは大きな目標を達成して宙ぶらりんになっても、その他の無数にある世界に飛び込んでいくことが出来る。

 

自分の信念を持ち、広い世界を見れていれば、モチベーションという心の炎は燃え尽きることはないのだ。

 

倒れても立ち上がれる。10カウントは聞こえない。さあ! 第2ラウンドだ!

※この文章はフィクションです。

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